もう少し前髪を切ってください
世界中のいたるところでたくさんの悲しい出来事が毎日起こっているというのに、私は散髪屋に行けば、「もう少し前髪を切ってください」などと言うのだ。東日本大地震で被災した方、亡くなった方やそのご家族のことを考えると、自分の前髪が数ミリ長くても、そんなことはどうでもいいことだ。でも、散髪屋で私は「もう少し前髪を切ってください」と言うのだ。
一体これは何なのだろう。
私の前髪が数ミリ長くても、そんなことに気がつく人は一人もいない。自分でも2~3日すれば、髪を切ったことさえ忘れてしまう。自分の前髪の長さに気を遣っている場合ではないのだ。そんな暇があれば、少しでも被災された方のことを、考えるだけでもいいのではないか、とも思う。
しかしだからと言って、髪の毛を伸ばし放題にして、身だしなみも気にせずにいるのがいい、というわけではないだろう。髪の毛が伸びてくれば散髪に行くし、汗をかけばシャワーを浴びる。食事の後は歯を磨くし、朝はきちんと髭をそる。髪の毛を伸ばして、シャワーも浴びず歯も磨かず、髭もじゃの顔をしている人を見て、「この人は被災した方々のことを真剣にいつも考えているのだ。」と思う人はいないだろう。「何この人?」と思われておしまいだ。
東日本大地震と大津波で被災された方々には本当に心からお見舞いを申し上げたいし、亡くなった方々のご冥福を心からお祈りしたい。その気持ちは強く持っている。でも、だからといって、散髪屋で「もう少し前髪を切ってください」と言うことをためらうことはないのだと思う。それをためらうより、被災された方々のために自分でできる具体的なことを考えて実行するほうがいい。
だから、自分以外の人々のことを深く考え、想う、ということと、自分自身のことを考える、ということは、決して相反することではなく、両立することだし、両立させるべきなのだと思う。もう少し広げて言えば、自分以外の人々のことを深く考え、想うあまりに、自分や自分達がやりたいこと、やろうと思っていることを中止したり延期したりしてしまうのは、結果的にあまりいいことではないだろうということだ。それよりも、自分達がやりたいこともやって、それと同時に、自分や自分達が人のためにできる具体的なことを考えて実行するのがいいと思う。
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