3月15日クライストチャーチで私が見て感じたこと その2
(昨日のブログの続きです)
クライストチャーチ空港でロトルア行きの飛行機に早めにチェックインをして、仕事のメールをしていると、ニュージーランド航空のアプリから、ロトルア行きの飛行機がキャンセルになったと連絡がきた。空港の掲示板をみると、ロトルア以外にネルソンとホキティカ行きもキャンセルになっていた。4時半頃だったと思う。
その他の便は通常通りだった。
他の便に振り替えをしてもらおうと空港カウンターにいくと、たくさんの人が並んでいた。3便分の乗客全員だから200人以上はいたと思う。カウンターは一つで窓口のスタッフは2人だけだ。
予期せぬキャンセルで、空港スタッフも混乱していた。
「とにかく預けた荷物を取りに行って、この列に戻ってきて並んでください!」
というアナウンスを、一人の空港スタッフがマイクも使わずに大声で何度も行っていた。
列に並ぶ人はどんどん増えていくし、空港の館内放送で大きなボリュームの他のアナウンスもあるし、だから大声を出さないと聞こえないし、でも何度も何度も同じことを聞かれるので、なんども同じことを繰り返し叫ぶ。
そのスタッフの表情は、みるみる疲労の色が明らかになってきた。
すると突然、列に並んでいる一人の男性が、
「大丈夫だよ。あなたは自分の仕事をすごくよくやっているよ!」
と声をかけた。周りにいたお客さん達も、
「そうだよ。彼の言う通りだ。よくやっているよ!」
と口々に言った。
そう言われた空港スタッフは、にっこり笑って、「ありがとう」と言うと、もう一度
「とにかく預けた荷物を取りに行って並んでください!」
とさっきよりもよく通る声で叫んだ。
私はそれから30分くらい並んで、1時間半後のタウランガ行きの飛行機を取ることができた。まだ私の後ろにも並んでいた人もいたけれど、だれも声を荒げたり、スタッフに詰め寄ったりする人はいなかった。
でも、当日は空港もかなり混乱していた。
キャンセルになったロトルア行きから替えたタウランガ行きにチェックインをして、荷物を預けて30分くらいすると、またニュージーランド空港のアプリでメッセージが届いた。その日のそれ以降の全てのクライストチャーチ空港発の便がキャンセルになります、とのことだった。5時半を少しまわった頃だったと思う。
5時から5時半の間に、全ての出発便をキャンセルすることが決まったのだろう。後で考えてみると、国内線の乗客のセキュリティーチェックが必要だけれど、その時の状況では全ての乗客と荷物のセキュリティーチェックは難しいという判断だったと思う。万一、飛行機内で何かあれば取り返しがつかない。だから全ての便をキャンセルにする、という判断だったのだろう。
私は、預けた荷物をまた取って、さっきと同じ窓口に並んだ。今度はさっきの倍以上の人達が並んでいた。
お客さんも疲れていただろう。スタッフも疲労こんぱいという感じだった。その時間になると、たくさんの武装警官も空港内を歩き回っていたし、緊張感も走っていた。
でもそんな状況でも、声を荒げるような人は一人もおらず、みんな黙って、中にはニコニコして列に並んで順番を待っていた。
すでに6時頃になり、テロがあったというニュースはその頃にはみんな知っていたし、49名の方が亡くなったニュースも流れていた。空港の待合室に置かれているテレビでも、CNNやTVNZのニュースが流れていた。
武装警官がたくさんいるということは、空港も何かあるかもしれないとほとんど人が思っていただろう。テロという言葉から空港を結びつけることは誰でも容易だ。数時間前にテロがあった町の空港で長い時間滞在するのは、やはり怖い。空港の内外には、武装警官もたくさんいるのが見えた。犯人が全員捕まったことはその時点ではまだ確認されていなかった。町や学校はロックダウン状態だ。私もそうだけれど、空港にいた人達は、多かれ少なかれ不安で怖かったと思う。
でも、みんなおだやかに、黙って順番を待っていた。中には、見知らぬ人同士が一緒になって「みんなでレンタカーを一台借りよう」と話合っていたり、お互いに情報交換をしている光景も見られた。
私は次の日土曜日の午後のロトルア行きの便が取れ、空港近くの宿も取れた。
7時頃、空港の外では、タクシーを待つ人達が列を作っていた。タクシーもなかなか来なかった。また、普段走っているエアポートシャトルバスも、一台見かけただけで、後はいなかった。空港のスタッフに聞くと、公共のバスは全てキャンセルで走っていないという。空港ロビー内のレンタカー屋さんには、各社数名ずつお客さんが並んでいたので、その時点ではまだレンタカーは借りれたのだろう。でも、台数にも制限があるだろうから、結局借りられなかった人もいたかもしれない。
空港近くのモーテル、ホテルは、軒並み満室だった。クライストチャーチ在住の人は戻るところがあるけれど、私のようにクライストチャーチに仕事や旅行で来ていた人は、新たに宿を取るしかなかった。
宿のオーナーは、「今日はこの1時間で30本以上の電話があったよ」と疲れた表情で言っていた。
チェックインして部屋のテレビをつけると、TVNZでは首相のJacinda Ardern 氏が会見をやっていた。また、事件のあったモスクのそばから中継も行っていた。その時点でも、まだ犯人が全てつかまったわけではないので、今夜は家から出ないように、と伝えられていた。
気がつくと夜の8時。外は暗くなってきた。
その時、クライストチャーチの留学生の一人から「もうロトルアに戻りましたか?」とメッセージが入った。私が、飛行機がキャンセルになり空港近くのモーテルでもう一泊することになったこと、また、今日は気をつけて過ごしてくださいと返信すると、「上野さんも、気をつけてください!」と優しいメッセージが届いた。疲れが一気に吹き飛んだ。
金曜日の夜は宿でずっとニュースを見ていた。
翌日土曜日、空港では、国内線に乗る全ての乗客にも、セキュリティーチェックが求められた。
事件発生のときにすぐ近くにいて、犯人追跡中の町の様子や警察の動きも、わずかだけれど自分の目で見た。いつもと違う空港の雰囲気の中にも身を置き、翌日のセキュリティチェックも経験した。その間に、ネットやテレビから流れる情報を集め、留学生達や保護者に連絡をした。
ニュージーランドにこの事件の影響が出てくるのはこれからだろう。
しかし、これまでの、ニュージーランドのリーダー達や、市民、クライストチャーチの人々の行動や言動を見ていると、この国はこれからも大丈夫だと感じる。
これまで通り、移民も難民も、安心して暮らすことができるだろうし、今後もダイバーシティの国として、世界の中でも有数な平和な場所であり続けるだろう。
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