NZジュニアラグビーコーチングに学ぶ
先日、ロトルアのジュニアラグビーの練習を観に行ってきた。
ロトルアの街の中心に練習場を持つ、カフクラクラブのU12(今年12歳の誕生日を迎える選手)のチームだ。20名くらいのチームに女子選手が2人所属している。ジュニアラグビーはU5 くらいから年齢別にチームがあって、ジュニアは男女混合でU13までチームがある。その後の年齢は原則として男女別高校別のチームとなって、高校を卒業して18歳以上になったらまたクラブチームに戻ってきて、シニア(大人)のチームでプレーをする。
だからU12 のチームは、ジュニアの中では上の年齢で、練習開始も夕方5時半からとやや遅い。ニュージーランドでは6月20日前後が冬至なので、6月の5時半は真っ暗だ。みんな真っ白な息を吐きながら照明の下で練習をする。
その1時間程度の練習を見ていて、とてもたくさんのことを教えられた。
練習が始まるとまず、コーチが選手を呼び集めて、その日の練習メニューを説明する。その時には必ず「練習の目的」もきちんと伝える。何のために今日はその練習をするのか、ということをわかりやすく説明する。選手達はコーチを囲んで輪になっているのだが、コーチは一人ひとりの目を見ながら話をする。
練習が始まると、コーチ達は必ず練習の中に入って指導をする。選手だけを動かしてコーチが外からあれこれ指示をする、などということはほとんどない。そしてコーチも含めてみんなで動きながら練習をしているときには、その練習の目的に沿った言葉を、個人個人にかける。全体に向かって指示を出すよりも、一人ひとりに声をかけるのだ。例えば、最初の練習は「Decision Making(考えて判断して行動する)の力をつける」練習だったのだが、「スペースを見ろ!」とか「そのまま続けて!」とか、具体的な指示を、個人の選手に伝える。
もし全体に対する指示や指導が必要な場合は、一旦全員の選手を集めてそれを伝える。そして全体の指導をするときには、一方的にコーチがああしろ、こうしろ、というのではなく、「その場合は何をすればいい?」とか「どうすれば動いている最中にそれがわかるのか?」などと、選手達に質問をして答えさせながら指導をする。1~2分間の全体指導が終わればまたすぐに、コーチも一緒に入った同じ練習にもどって、その中では個人個人に、練習の目的に合った声をかける。
だから、その練習の目的ではないプレーでミスがあっても、指摘したり、ましてや怒鳴りつけたりはしない。例えば、「Decision Making(考えて判断して行動する)の力をつける」練習のときに、ボールを落とすハンドリングエラーがあっても、あえてそこには踏み込んで指導しない。それは、選手の注意を、その練習の目的に集中させるためだと思う。また、いい動きをしたときには、「よくできた!」「すばらしい!」と大きな声で必ずほめる。
「練習の目的の全体への説明 → コーチも一緒に入った練習 → 練習の目的に合った個人への指導 → 全体を集めての双方向の指導 → 再度練習」という繰り返しの中で、選手達が自分で考えながら、しかも練習によって何をつかまなければならないかを理解しながら、練習する。
後半は、ポジションによって、バックスとフォワードに分かれた練習だった。フォワードの選手達はどうも集中力がなく、ピシッとした練習には最初はならなかったけれど、コーチは我慢強く一人ひとりに声をかける。「サインは何度も言わなくても、一言大きな声で言えばいい」などとその指示も具体的だ。でもどうも全体的に動きが悪いとなると、「じゃあ、全員向こうの端まで走って戻って来い」という指導もある。みんないやな顔もせずに、120メートルくらい向こうのグラウンドの端まで走って戻ってくる。そして息をハアハア言わせながらまたもとの練習に戻る。
1時間程度の練習中、コーチが選手のミスに対して怒鳴ったり、選手を大声で怒ったりすることは一度もなかった。それよりも、個人個人の選手に何度も何度も、「よくできた!」「うまいぞ!」「さっきよりもかなりいい!」「その調子!」などとどんどんほめていた。
練習の後コーチと話をしたのだが、「日本のラグビーの練習では、決められたことをきちんと決められたとおりにできるようにする、という練習が多いと聞いている。でも、実際のラグビーの試合では、状況を見て自分で判断して動くことがとても大切だ。個人個人の選手が頭を使って動かないといけない。だから、最初に、Decision Makingの力をつける練習をするんだ。」とおっしゃっていた。
「練習の目的の全体への説明 → コーチも一緒に入った練習 → 練習の目的に合った個人への指導 → 全体を集めての双方向の指導 → 再度練習」という指導の流れ、決められたことをきちんと決められたとおりにできるようになるという練習ではなく、Decision Making(考えて判断して行動する)の力をつける練習、一方通行ではなく双方向の指導、ミスを指摘するのではなくほめる指導。それらは、ラグビーだけではなく、スポーツ以外のコーチング、学校での教育などにも十分応用できる内容だと思う。
もちろん、日本のラグビー指導でも、上記のようなことを取り入れているコーチも多数いらっしゃるだろう。また、日本の学校教育の現場でも、実践している先生方も多いと思う。でも、ニュージーランドのラグビーでは、U12 だけではなく、U5 から高校生、そしてシニアにいたるまで、コーチングのシステムがきちんと整っており、ほとんど全員のコーチがそれに従って指導を行っている。それが、ニュージーランドラグビーの強さの大きな要因だと思う。
ジュニアラグビーチーム、カフクラクラブU12の練習の模様は、以下からご覧ください。
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