お先にどうぞ
9月の週末に東京と大阪で高校留学個人相談会を実施したので、3週間ほど日本に滞在した。
日本の情報は、ニュージーランドにいるときでも常にネットで見ることができるし、日本にいらっしゃる方々から話を聞くこともできる。いろんな情報があるけれど、中には「電車で子どもを連れてベビーカーを持って乗っていると、嫌な思いをする」というものもある。「だからベビーカーを持って電車に乗ることはあまりしたくない」という方もいるようだ。
実際に9月に東京と大阪に行って、電車にもよく乗ったけれど、ベビーカーを押して電車に乗っている方を意外とよく見かけた。中には、幼稚園くらいのお子さんをベビーカーに乗せ、さらに1歳くらいのお子さんを抱いて電車に乗っている女性もいらっしゃった。動き回って体重も重い子どもさんはベビーカーに乗せて、小さくて軽いお子さんを抱っこするほうが、きっと移動しやすいのだろう。
そしてよく見ていると、子どもを抱っこしている女性に席を勧める方もいるし、さっとスペースを空ける方もいる。私がネットの情報から想像していたのは、誰も席を譲らなかったり完全に無視したりする光景だったので、素直にうれしく感じた。
ただ、電車に乗り降りするときは、ベビーカーを押している方を押しのけて乗降する人もいて、ホームとの間に広い隙間が空いている時でも、ベビーカーの乗降を助けたり、ベビーカーの方を優先して乗降させる人はほとんど見なかった。だから、私がついほんの少しだけ手を貸すと、ベビーカーの女性もそして周囲の人達もちょっと驚いた様子を見せた。
ニュージーランドでは、バスの運転手さんがベビーカーの乗降を手伝ったり、ベビーカーをバスの前に取り付けて走ったりするし、エレベーターや建物のドアは誰かが開けて次の人のために待っていてくれるし、何かにつけて「お先にどうぞ」と言われることも多い。だから、ずっとニュージーランドで暮らしている人間が日本に行くと、ついその癖が出て、誰にでもどこででも「お先にどうぞ」と言ってしまう。いいことなんだろうけれど、日本の方からすると、その行動は目につくのだと思う。
私はニュージーランドで17年間ずっと暮らしているので、日本の状況をきちんと理解していないだろうし、空気など全く読まないので、日本でずっと暮らしていらっしゃる方の気持ちや状況を100%共有できないこともある。だから逆に日本に行くと、後ほんの少しだけでもいいので、ニュージーランドのように「お先にどうぞ」という気持ち持って態度で表してもいいのではないか、と感じることがある。それは、ベビーカーを持って乗っている方に対してだけではなく、男性も女性も老いも若きも全ての人に対して、ほんの少しだけ「お先にどうぞ」とやってみる。それをすることで誰も傷つきも損もしない代わりに、もう少しみんなが暮らしやすくなると思うのだ。
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